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2020年夏号

学校における がん教育の可能性

神奈川県におけるこれまでのがん教育の取組

2012年6月に国は「がんの教育」を「がん対策推進基本計画」に盛り込み、それを受け、本県は2013年3月に「がん教育の推進」を「神奈川県がん対策推進計画」の中に位置づけました。さらに同年、神奈川県は医師や県立がんセンター、がん患者会、県医師会、学校関係者などで構成する「県がん教育検討会(現在は県教育委員会主体である「がん教育協議会」)」を設置しました。

この協議会では、学校におけるがん教育の実践を目指し、DVDやプレゼン資料などの電子教材を作成しました。外部講師の活用と合わせてこれらの教材を用いて「がん教育モデル授業」として実践しました。

さらに2014年からは文部科学省の新規事業である「がん教育総合支援事業」を受託し、今年度も受託しています。今年度は、この事業において今までに実践されてきた授業を活用し、さらなるがん教育を推進するために外部講師を活用した授業を増やし、これから先のがん教育の可能性を模索する取組を予定しています。

教科である保健体育とがん教育の関連

2016年3月に文部科学省は、小学校及び中学校の学習指導要領の改訂を告示しました。特に中学校の保健体育科では、「がんの予防」が生活習慣病などの予防の中で明記されました。さらに2018年3月には、高等学校の学習指導要領の改訂が告示され、保健体育科では、「生活習慣病などの予防と回復」の中で「がん」について取扱うことになりました。具体的には、がんの種類・原因について「理解できるようにする」と解説されています。また、がんの回復や治療法、患者や周囲の人々の生活の質を保つこと、緩和ケアについては「触れるようにする」とされています。がん検診についても「生活習慣病などの予防と回復には、個人の取組とともに、健康診断やがん検診の普及、正しい情報の発信など社会的な対策が必要であることを理解できるようにする。」とされています。

がん教育をツールとした教科 横断的な学びの提案

現在、学校においてキャリア教育、プログラミング教育、道徳教育、情報教育、人権教育など、「○○教育」という言葉は、人によりますがその数は40以上あると言われています。その中の一つが「がん教育」でこれらの「○○教育」の一つである「がん教育」のみをピンポイントで行っていくことは、非常に困難です。

では「がん教育」を実践していくためには具体的に教員は何をどのように進めたらよいでしょうか。

2015年3月に文部科学省は「学校におけるがん教育の在り方について報告」において、「1がんの要因等、2がんの種類とその経過、3我が国のがんの状況、4がんの予防、5がんの早期発見・がん検診、6がんの治療法、7がんの治療における緩和ケア、8がん患者の生活の質、9がん患者への理解と共生」の9つの具体的な内容を示しました。しかしながら、これらを保健もしくは保健体育科のみで全て取扱うことは非常に困難と言わざるをえません。

そこで私は「教科横断的な学び」及び「カリキュラム・マネジメント」が重要なポイントになると考えます。「教科横断的な学び」において、高等学校の例として、がんの要因等のがんの発生については、理科の生物において遺伝子や細胞分裂の単元で取扱うことができます。がんの治療法の放射線治療については、理科の物理において放射線の単元で取扱い、化学治療については、化学で取扱うことができます。

このように、特定の教科のみではなく、複数の教科の中にも学習指導要領の中で「がん教育」とリンクする内容が多く、「がん」を学びのツールとすることにより「がん教育」を推進できる可能性があります。

がん教育とカリキュラム・マネジメント

どの教科においてもがん教育は学びのツールとなり得る可能性があります。そのためには「カリキュラム・マネジメント」の視点が重要となります。「カリキュラム・マネジメント」とは、学校の教育目標を実現するために、学習指導要領等に基づき教育課程を編成し、実践、評価、改善をしていく取組です。なかなかカリキュラム・マネジメントが有効に機能しているとは言い難い現在の教育が捉える課題解決にがん教育の推進がきっかけになることが期待されます。

どの教科においてもがん教育は学びのツールとなり得る可能性があります。そのためには「カリキュラム・マネジメント」の視点が重要となります。「カリキュラム・マネジメント」とは、学校の教育目標を実現するために、学習指導要領等に基づき教育課程を編成し、実践、評価、改善をしていく取組です。なかなかカリキュラム・マネジメントが有効に機能しているとは言い難い現在の教育が捉える課題解決にがん教育の推進がきっかけになることが期待されます。

これからの学びの方向性

学校での学びの中心は児童・生徒であり、その学びは世界の変化と共に加速度的に変容しています。それに伴い、教員・児童・生徒の関係も単なる「教える」「教わる」の関係にとどまらず、教員も含め児童・生徒と共に「学ぶ」ことへシフトしつつあります。

「がん教育」の推進にあたり、教員が医師・研究者・がん患者などの人的外部資源を活用し、「チームとしての学校」を強化すると共に、児童・生徒と共に学ぶ姿勢をいかに共有できるかが大きなポイントになると考えます。

浦田 奈々美

神奈川県教育委員会 教育局指導部保健体育課保健安全グループ 指導担当主事

東京学芸大学教育学研究科教育実践専門職高度化専攻課程 (学校組織マネジメントプログラム)修了
2020年度から神奈川県がん教育を担当し、同県がん教育協議会事務局として新しい取組みにチャレンジしている。

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