うんコレ

2019年冬号

大腸がんの早期発見を目指すスマホゲーム 「うんコレ」

無関心な人へ医療情報を届けたい

  私はこれまで、消化器外科医として大腸がんをはじめとする多くの消化器疾患の手術をしてきました。しかし手術した頃にはがんが進行しきっていて、どうしても助けられなかった患者さんと接することも少なくありませんでした。外科医としていくら腕を磨いても無力な時があるということを痛感しました。
 ご存知の通り大腸がんは通称「Silent Killer」と呼ばれ、かなり進行するまで症状が出ないといわれています。一方、病気に関する情報を調べたり、興味を持つのは自分自身や身近な人に診断がついた時、もしくは強い症状が出た時ではないでしょうか。

 自分が外科医として患者さんや家族と接して情報を届けることは出来るのは入院~退院までの非常に限られた期間・限られた層に対してのみです。それ以外の、もっと自覚がない無関心な人へ、病院から遠い人に医療情報を届けるにはどうしたらいいか。小難しくて手に取りにくいもの、既に興味がある人にしか届かない情報ではなく、もっと手に取りやすく、届きやすい情報にならないだろうか。そんなことを考えていました。

うんコレ

  大腸がんになって一番最初に症状が出るのは「うんこ」の異変からです。大腸がんに限らず、大腸に起こる疾患の多くは排便から異常が現れます。「せめて、この事を少しでも多くの人に知ってもらえれば、早期発見につながるのではないか」と感じていた矢先に、「うんことおっぱいは拡散されやすい」という言葉を聞きました。

 「うんこ」というマジックワードを利用したコンテンツを作成することで、より多くの人に大腸がんをはじめとする消化器疾患の情報を伝えられるのではないか。そこで思いついたのが、生活に身近なスマートフォンで遊べるゲームアプリ『うんコレ』を作り、エンターテイメントとしての面白さの中に真面目な医療情報を溶け込ませることでした。
  うんコレは、腸内細菌を擬人化し萌えキャラ化した、俗に言うソーシャルゲームです。ただし、一つだけ特徴があります。

「課金の代わりにうんこの報告をする」ことです。

 課金とは、ゲーム内でお金を払って強いキャラクターやアイテムを手に入れること。これにより、強い敵を撃破できるようになります。うんコレの場合は、この課金の代わりに排便報告をすることでキャラクターを手に入れられます。毎日の排便報告の中で、快便のためのアドバイスがついたり、病気を疑う怪しい排便状態を確認した場合にはアラートが出る仕組みになっています。

 僕自身も幼少期から毎日欠かさずにゲームをするほどにゲーム好きです。ゲームを夢中で遊んでいると自然とゲームの背景にある物語が染み付いてきます。このような心理を利用して、自然と健康情報が身につき、なおかつ日々便を見る習慣(観便)が身につき、便の異変があった時にタイミングよくアラート情報が出ることで、受診行動を促すことが可能なのではないかという仮説で作成しました。

関心層に応じた動機付けが重要

  行動変容のステージングを大学時代に習いました。無関心期→関心期→準備期→実行期→維持期と段階を踏んで人々の行動は変わっていくといいます。僕らが狙ったのは無関心層→関心層への転換のみ、それも比較的若い世代だけを対象に絞り込みました。世の中にある啓発活動の多くは老若男女を問わず、全ての関心層に向けて発信しようとしすぎていて、結果として誰にも届かないということを繰り返しているように感じます。

 「大腸がんは早期に発見して早期治療しましょう」というメッセージはあまりキャッチーではなく、「がんは治療するな」というメッセージの前にはインパクトで負けてしまいます。しかし、本当に正しく届けなければいけない情報は前者のはずです。正しく拡散されるべき情報に、メディアも手を伸ばしたくなるようなインパクトのある情報が付加されることで、一般紙や女性誌等複数メディアが、普段は取り扱わないような大腸がんの一般向け記事を作成してくれたのです。特にターゲットを絞らず奇っ怪なゲームも作らず、一医師として届けるには限界があった情報も、このような形で拡散力を持つことが可能となりました。もし、今情報を届けることに悩んでいる方がいらっしゃれば、対象を絞ること、特に行動変容の段階に応じた発信を意識してみるのはどうでしょうか。

石井 洋介

日本うんこ学会会長。

2010年高知大学医学部を卒業後、医療法人近森会近森病院での初期臨床研修中に高知県の臨床研修環境に大きな変化をもたらした「コーチレジ」を立ち上げた。その後、大腸がん検診の普及を目的とした日本うんこ学会を設立し、スマホゲーム「うんコレ」の開発・監修を手がけるなど、医療環境の改善に向け特にクリエイティブ領域から幅広く活動している。横浜市立市民病院 外科・IBD科医師、高知医療再生機構企画戦略室特命医師、厚生労働省医系技官を経て、現在は在宅医療を行う傍ら、デジタルハリウッド大学院でコミュニケーションデザインを専攻、医療者の集まるコミュニティSHIPの運営等も行っている。株式会社omniheal代表。近著は、日本で初めてYouTubeを活用した医学書「YouTubeでみる身体診察」(メジカルレビュー社)、「19歳で人工肛門、偏差値30の僕が医師になって考えたこと」(PHP研究所)等がある

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