2019年創刊号

がん教育 がん患者外部講師としてできること

 神奈川県横浜市に住む長谷川一男(48歳)と申します。肺がんに罹患したのは9年前、39歳の時です。残念ながら転移があり、進行度を示す数値は最も進んだ4。息子は小2、娘は年長でした。幸せな「日常」はずっと続くものだと思っていました。いや「日常」が続くとか終わりがあるとか考えたことなどありませんでした。そんな中で右往左往しながらも、医療者や家族に支えられ、現在に至っています。そして今、患者外部講師として、がん教育に貢献したいと強く思っています。 所属する神奈川県がん患者団体連合会(14の患者会が加盟)は 、昨年度より神奈川県や横浜市、研究者と協力して外部講師研修会を開催しています。私自身は神奈川県のがん教育協議会の委員であり、文部科学省のがん教育教材VTRに患者として登場しています。ご覧になった方もいるかもしれません。がん教育との関わりはそれほど長いわけではありません。今回、寄稿の要請を受け、実力・経歴としては浅く、お受けするべきか迷いました。しかし、全国で活動をし始めた大勢の患者外部講師が何を考え、どう進んでいるかをお伝えする位置づけならば、意味はあります。患者外部講師として私が今、感じていることをそのまま書いていきます。

▼肝に銘じておくこと・・・

 早速皆さんにご紹介したい記事があります。それは全国がん患者団体連合会、神奈川県がん患者団体連合会の理事長である天野慎介が書いたものです。 タイトルは「著名人ががんを公表する度に起きる騒ぎ がん経験者としてお願いしたいこと。」(※)今年の2月19日、 競泳選手の池江璃花子さんが白血病であることを公表された時に書かれました。私はこの記事に、がん教育に関わる者すべてが、なによりもまず、肝に銘じておくことが書かれていると感じています。

 当時、池江さんの病状の憶測や善意の励ましがマスコミで数多く報道されていました。著名人ががんを公開するたびに過熱した報道が繰り返されている現状に対し、天野はこう語ります。

「皆さんが18歳の時を想像してほしいのです。何となく体調が思わしくなく、病院を受診したら白血病であると診断され、医師から病態や治療について説明を受けて、直ちに入院治療に入らざるを得ない状況に置かれたら――。あなたなら、どのような気持ちになるでしょうか。過熱した報道を目にして傷つけられている患者や家族がいることも、ぜひ知っていただきたいと願います。」

「これからも温かく見守っていただけると嬉しいです」とのご本人のコメントが全てです。タレントの堀ちえみさんも舌がんであることを公表しました。池江さんや堀さんの回復を願い「温かく見守ること」が私たちにできることであり、これ以上記すことはありませんし、記すべきでもないでしょう。」

 がんを罹患したばかりで、その心情は計り知れません。しかも、18歳です。 その18歳の女性に対し、 「温かく見守ってくれると嬉しいです」と言わせるまで、私たちは追い込んではいないか・・・・ 「とても心配している」「頑張って欲しい」 そういった善意の気持ちの裏側に、単なる興味本位の心が隠れてないかどうか、天野は問いかけたのです。

がん教育の目標は2つあります。
①がんについて正しく理解することができるようにする
②健康と命の大切さについて主体的に考えることができる

この2つの目標に向かうことで、こどもたちの「生きる力」を育むのだと、がん教育にかかわる諸先輩方から教わりました。目の前に進んでいく道が示されています。

 しかし、今、「温かく見守る・・・」たったそれだけのことができていません。いや、たったそれだけという表現は間違っています。難しいのです。これは池江さんだけでなく、ほぼ全員の患者が体感していると思います。しつこく病状を聞かれたり、悩みを聞くよと言われたのに、いつのまにか患者が悩みを聞く側になったり・・・そんなことが誰の身にも起こっています。困難を抱える者の生きづらさや苦悩を知り、寄り添う力を持つためには、生徒自身の想像力が働き、「自分事化~もし自分だったらどう思うか」と考えることが必要と考えます。当事者である患者の果たす役割は小さくありません。丁寧に、「がん患者の気持ち」を伝えていければと考えています。

▼いかに「自分事化」するのか・・・

 がん教育の目標の一つ、「がんについて正しく理解する。」この部分について、私は今まで患者外部講師には不向きであり、教師や、医療者の外部講師が担う方がよいと考えていました。最近は、必ずしもそうではないと考えています。いや、むしろ、向いているのではないか。一般的に誤解されているがんのイメージと正しい知識を、患者の経験・物語に載せて届けると、「伝わる」と考えるようになりました。自分事になっていくのです。

 私は肺がんを患っています。病気のことを打ちあけると、必ずと言っていいほど、聞かれることがあります。

「たばこ吸っていたの?」です。

 肺がんを患うのはたばこを吸っていた人、というイメージがあると思いますが、喫煙だけが原因ではありません。肺がんには、遺伝子の変異や原因のわからないタイプの肺がんもあります。つまり、たばこを吸っていなくても肺がんになることがあるのです。私はたばこを吸ったことはないので、そのタイプに入ります。がん全体を見ると、そもそも生活習慣が原因でがんを患うのは、全体の4割ほどです。ならば、生徒に肺がんの原因はたばこだけでないことを伝えたのち、こう語りかけたらどうでしょう。

 「私はたばこを吸ったことがありません。そのため、たばこ吸っていたの?と質問をされると、腹立たしく、悲しくなります。喫煙者だった場合はもっと深刻です。たばこを吸っていたことを誰よりも後悔しているのに、親しい人にまで自業自得と責められ、冷たく突き放されたようで、孤独感にさいなまれます。心が痛むので「たばこを吸っていたの?」という質問はしないでほしいです。苦痛や恐怖に立ち向かい闘病を続けている私たちのことを思ってくれるのであれば、知ってほしいです。そしてみなさんが大人になった後、たばこを吸わないでいてくれたら、とてもうれしいです。」

 患者の物語に載せると自分事化する。この手法は他でも使えます。

 モデル授業において「がんを怖いと思う人?」と問うと、生徒のほぼ全員が手を上げます。世間一般に、「がん=死」というイメージがあるためです。データ上からは、そのイメージと実際は乖離しています。がん全体の5年生存率は6割以上。およそ3人に2人。早期の段階で見つかれば9割以上に達します。実は亡くなる人より、がんになっても元気に仕事をしたり、生活したりしている人の方が多いということです。そもそも患者自身が生徒の目の前に立ち、普段通りに生きている姿を見せること自体、その証です。そこにこう加えたらどうでしょう。

「イメージと現実が異なる。これは大事なポイント。今日、みなさんががんを正しく理解する理由です。がんに対して間違ったイメージを持っていると、例えば、大切な人ががんになったとき、きちんと接することできなくならないでしょうか。お医者さんに治る確率高い、と言われて一生懸命治療している人を「死んじゃうの。かわいそう」と思っていたらどうだろう。相手は傷つきます。こういうのを偏見といいます。例えば、職場で、がんを患ったけど、すこし配慮してもらえれば働けますという人はたくさんいます。でも、「死んじゃう」というイメージしかないと、もう会社を辞めたらどうだろう?なんて言われかねない。だから世の中にがんを隠している人は意外にいます。それって、いい世の中だと思いますか?間違ったイメージで誰かを傷つけているだけです。だから、みなさんには、なによりもまず、がんを、きちんと、正しく、理解するところから始めてほしいです。知らなくて誰かを傷つける・・・そういう世の中を君たちに変えていってほしいと思います。そのために今、学んでいます。」

▼最後に・・・

 がん教育が子どもたちに影響を及ぼし、自分を大切にし、他人も大切にする。結果として、生きる力が育まれることになったら、それは望外の喜びです。そこにたどり着くべく、全国で活動をし始めた大勢の患者外部講師が、がん教育に貢献すべく、学び、実践を続けています。関係者の方々、ご指導、ご鞭撻をよろしくお願いいたします。

長谷川一男

長谷川一男

NPO法人肺がん患者会ワンステップ代表、肺がん患者連絡会代表

2010年肺がん(腺がん)ステージⅣ、余命10か月の告知を受ける。それでもがんと闘いながらがん患者会を率いて精力的に活動を行う。2016年12月世界肺がん学会でペイシェント・アドボカシー・アワードを受賞。横浜市、神奈川県のがん教育に患者の立場で従事している。一般社団法人神奈川県がん患者団体連合会の理事も務める。

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