2019年創刊号

鼎談会 医師が「がん教育」を語る

(片山)西森先生はどのような形でがん教育にかかわってこられたのでしょうか?

(西森)最初は、岡山市のある部署が、がん教育をやりたいとお声掛け頂きまして、当時僕は、大学病院の腫瘍センターに所属しておりまして、つながりがあり、一度授業をやらせていただいたのです。
それをやると、とっても自分がやること自体にやりがいがあると言いますか、もちろんがん教育の重要性というのが自分でやってすごくよくわかったんですが、それ以上に、やることで自分も元気づけられるというか、そういったところがあったので、岡山県にこれは是非、どんどんがん教育をやっていこうと、お願いしにいったんです。

(片)2014年から本格的に岡山県のがん教育事業に携わって来られて、先生のがん教育のスタイル、どんな内容で組み立てていこうか、発達段階に合わせてがんの教育としては、参考にされた資料とかテキストとか、あるいは岡山県で作っているがん教育の教材などを参考にされたのでしょうか?

(西)総合支援事業で、岡山県版の指導マニュアルみたいなのを作らせて頂きました。実際にその自分がスライドを作ってパワーポイントでお話しするのですが、そこに関しては大きくは、いわゆるがんの在り方の委員会で、まとまった項目に沿う形で目次建てをし、自分の専門分野ですね、私の専門は血液腫瘍と造血幹細胞移植ですので自分の得意なところは積極的に、また手術や放射線治療に関しては、自分で話しやすいように、モディファイしてやらせていただきました。
実際にやっぱり治療に携わっている人間が、素朴な疑問に答えられ事ができる場は凄く大事だと思うんです。教員の方もあいまいな知識や、良くわからない事はやはり勉強されていてもあると思うんですけれど、そこはプロとして話をする事ができるというのは、まず一番重要なところだと思います。

(片)経験を重ね、スタイルもブラッシュアップされているのですね。
がん教育の目的は、正しい知識を子供のうちから伝えていく事と、がん患者さんらと共に生きる社会作り「命の大切さ」を、がんを通じて理解させたいという願い、なのですが

(片)正しい知識ってすごく言葉にすると簡単なのですが、実はすごく難しいですよね?エビデンスはアップデートされますから・・・。

(中村)「正しい知識」って意味では「何のための正しい知識か」っていうのが重要なのかなと思います。簡単に言ってしまうと、その人が極論言えば「より良く生きれる・生ききれる」ってことだと思うのですけれども。
いきなり各論で細かい正しい知識の前に、総論的な全体像をまずは伝えることができるといいのではないかと思っています。具体的に言うと、大きく分けると、がんって一言で言っても「根治を目指すがん」と「非根治のがん」もあって、もちろんボーダーラインがありますが、そこできれいに線引きできるわけではないのですが、それが一般の人達の間でかなりあいまいっていうか、がんって情報を与えられたときに、根治と非根治がんがいっしょくたになってしまっていると思います。それは多分、情報を収集するにしても、学習・教育って場面でその様な前提知識がないと混乱のもとになるんじゃないかと思っています。その2つが違うと「何の為の教育か?」って視点もかなり大きく違ってくると思うのです。
一次予防、二次予防の話ばかりをメインにしてしまうと、三次予防的な内容、つまり非根治の親御さんを持ったお子さん達が、ダメージを受けるじゃないですけれど、傷ついてしまうというのは、多分そこらへんの内容をちゃんと入れないといけないっていうような事なんだなって事だと思います。

(片)ありがとうございます。まさに、先生達のおっしゃる通りで、益々これを例えば学校現場の保健体育課の先生に担わせるってことは、本当に荷が重いんだろうなとお話しを聞いていて改めて思いますし、外部講師が出向いて行って、学校教育の中で専門職ががんを教えていくのって大事だなと改めて感じます。

生活習慣病の1つとしてがんをとらえ「健康教育の中でがんを教える」と言う文部科学省の方針についてお聞きします。正しい知識というと、がんと遺伝についてはどの程度国民は知っておくべきでしょうか?

(西)私ががん教育で、遺伝とがんというのをスライド一枚だけ作ってお話をする事がありますが、それは省くこともあります。なぜかというと遺伝と遺伝子がごっちゃになってしまうところが、一回の授業でまとめて話しする事はとても難しいからです。
基本的には遺伝が由来する側の症候群の名前であったり、いろんなことを、それを知識として言う事は簡単ではありますが、それをなかなかご理解いただくのは難しいと思います。
一般的にはそのいわゆる「家族歴」ですよね、がん家系といいますが、家族歴というのでがんになっている方が多いって言う所は、まず注意しないといけませんよと言うところは、普通に言ってもいいようには思います。
ゲノム治療については、まさに今の時点でも進歩しているところです。今、僕のがん教育のスライドの中には、ゲノム医療の事は入れているのです。やはり気になるところなので。ゲノム治療というのは、何をやっているのかってところを、ざっと見ていく。ただ、そこの問題点というか、そこから出てくる疑問に関しては、一回の教育ですべてをカバーする事はできませんので、その都度、疑問点が出てくる事は良い事、素晴らしい事だと思いますので、そこからドンドン勉強して行っていただく流れが良いことかなと思います。

(中)ゲノムリテラシーも高くないとゲノムの活用したソマティックでもジャームラインでも、恩恵を受けられないんじゃないかって言うような事が結論としては懸念されています。ゲノムに関しても膨大な領域が1つになってしまっていて、どのような観点から、あるいは視点から見るかでポイントも異なってくると思います。ましてや特定の疾患と結び付けたりする際は、より配慮が必要で、そこをちゃんと整理してどのような形で一般の人に伝えていくのか、利益になっていくのかはとても重要だと考えます。
遺伝にこれだけ影響受けていると思っている人が多いという事実の裏には、もう「修正できない」と言うか「生まれ持ったからそれで確定してしまっているからしょうがない」と思ってもらうと困るという事だと思います。たとえ遺伝的なリスクを持っていても、そこの生活習慣との掛け合わせで、モディファイアブルなリスクなんだよって言うのは、知っておいてもらわないと。

(片)そうなると、自分でコントロールできる生活習慣の見直しだったり、改善だったりとか、今からできる予防的な知識をメインに、がん教育を教えていくべきって感じですか?

(西)そこはまた、また難しいところですかね。もちろんそれは、知識として知っておくというのは重要な事ではありますが、そこが独り歩きしてしまうとまた危ないですよね。結局、そうでないがんと言うのもたくさんあるわけで、生活習慣きっちりやっている人でさえ、がんになるってところもありますので、前面に「予防」って言うところにスポットライトを当ててしまうのは、やはり危ないと思いますよね。
そこは、
こうやっててもなる人がいるんですって事を含めてがん教育で伝えるべきだとは思います。
「お前のお父さん、たばこばっかり吸っていたから、がんになったんだ」なんてことになったら、ぐちゃぐちゃになってしまいます。

(片)実際に、西森先生がおっしゃった様に、モデル事業で小学校6年生だったんですけれど、子供達が「がんに対するイメージ」があまりにもネガティブで、がん教育をやった事前と事後で意識の変化をはかると、みんなすごく「タバコを吸わないようにしたい」とか、「将来検診を受けたい」とか言ってくれるんですが、反対にがん患者さんは「タバコをやり過ぎた人だ」とか「お酒を飲み過ぎた人」だ、と。そういう本当に子供って素直なので、たばこを吸ってはいけません、お酒を飲み過ぎてはいけませんよ、太り過ぎないように運動してくださいねって事を素直に聞き入れる分、がんになった人は「それを守らなかった人なんだ」って、本当にすぐ伝わってしまう懸念があります。

偏見や、がん患者さんに対するスティグマを生んでしまうことになるので、そこをどうやって正しくがんを怖がってもらうべきなのかって言うのは、一番最初に上がった課題でした。
それを払拭するために、患者さんが実際にがん教育の出前授業に出向いていただいたところ、その偏ったイメージが下がるという結果になりました。そこに、患者さんの力をすごく感じた事があったわけです。やはり予防だけに注力したりとか、メインにしたりしてしまうと、がん教育が失敗してしまうかもしれないという、バランスの難しさを痛感した出来事でした。

(中)広い特徴をもった患者さん達がいる疾患が「がん」です、それが全部がんって名前になっているので、なんでもどの側面でも切り取るにしても、細かくなりすぎると、やっぱり外れる方が大きくなる。やはり、あまり細かくやり過ぎるのも良くなくて、広く分かってもらうのと、「高血圧とか糖尿病」も同じ病気ですが、悪いイメージを子どもたちはもっていないように思うんです。そういう意味では、生活習慣病の1つという視点で「がん」を考えるのはいい形かもしれないと思います。

(片)がん教育にどうしたら医療者(医師)が携わってくれるようになるのでしょうか?

(西)そこに関しては、やはり行って良かったって言うところがまず無いと、継続的には難しいと思います。実際に所謂、通常業務(診療)はどうしてもありますから。そこから時間を割いていくと言う所になっていくとなると、それなりにエネルギーが必要です。
だからと言って、じゃ、時間を作れないかと言うと、そんな事も無いと思うんです。学会だって行くときには行くわけですから。そこに「がん教育に1時間時間を割こう」と言うように考える先生というのは、
先生と言われている職業の人っていうのは、そうは言っても「何か伝えたい」とか「教えたい」とか、そういった気持ちを持っている方は、少なく無いと思います。実際にやってみようかなと思う先生というのは「手を挙げてください」と言うと誰も手をあげないかもしれませんけれども、心の中では割といらっしゃると思うんです。
そう言ったことによる、物理的なインセンティブはなかなか難しいところはある、金銭面だったりそういったところは難しい、現実的には難しいかもしれませんが、なんらか「行きやすい」「休みがとれます」とかですね、実際、都道府県の方とその繋がっている事であったりとか、そう言った「アクセスのし易さ」があれば、比較的「やりましょう!」って言う方がいらっしゃるようには思いますけれどね。

写真:岡山県の中学校でがん教育をする西森先生

(中)どうしてもその日「外来抜けられない」とか「病棟をみてなくてはいけない」という物理的なそういうのはあるかなと思うんですが。やりたいと思っているかたは、結構いるかと思います。

(片)なるほど。ちょっとした「実はやりたいんだよ」って事がわかるようになるといいんですけれどね。お声かけしやすくなるんですけれど。(神奈川県立)がんセンターはOBを中心にとりあえずリスト化を進めたんです。時間的に余裕があるという事と、やはり外科なり臨床をバリバリやられてきた先生が年月を経て、最終的にやはり「がんを予防する事」に、興味関心が集まって来るという事で。

(中)質問いいですか?外部講師は人生経験が豊富な方がするのと、若手の先生がやられるのでは、伝わるメッセージが違いそうですか?

(西)もちろん、年齢というのはやはり先輩の先生であればあるほど、経験豊富でがんちくがあるってところもあるのかもしれませんが。一方で、生徒さんと親しみやすく出来るかどうかって言うところになると・・・

(片)年齢が近い方が?いい?

(西)はい。そうですね。近いほうが比較的、話が合うといいますか。ポケモンの話ができるとか。そういったところが、やっぱり生徒さんの目線で話が出来ないと、難しいところはあります。そこは、単純に上の人ほど上手ってことにも、ならないようには思います。

(片)まさに、リスト化したとしても、全てその人達がいきなり「がん教育」ができるのかと言うと多分そうではなくて、これは何度も言っているのですが、養成する必要があって、医療者であっても「知っている事」と「教えてる事」は違ってくる。経験豊かな公明な先生が、がん教育をしたからといって、伝わるかと言うと、おそらく学習心理学的に、どの言葉をつかって子供に伝えたら良いのかってこと。何も考えずに現場に向かわれると、独りよがりで終わってしまうのかなという事はありますよね。

(片)児童生徒へ配慮について、特にご両親だったり、身近な近親者をがんで亡くされていたりとか、実際に今がんと闘っているようなお子さんが増えていくわけですが、文部科学省のガイドラインでも配慮をするように、十分に配慮する様にとあります。このことについていかがでしょうか?

(西)あらかじめってところで、担任の先生が情報取集して、こういった事(がん教育)をやりますけれど、いいんですか?などの事前準備をする、そして『難しいです』っていう場合に「最初から席を外して頂く」もしくは「体育館でやる場合には、同じフロアじゃないところで聞いてもらったり」とか、そういった配慮はできると思います。
ケースバイケースで対応していくしかないのかないのかなと思いますし。実際、同じフロアで聞く場合も、担任の先生に隣にすわってもらってとか、そういった所でサポートしていくのが最大限なのかなっていう風には思います。

(片)やはりお一人お一人、寄り添わなければいといけないですね。

(西)ただ、それは良いいいきっかけにもなると思います、生徒さんと担任の先生との関係という意味で。そこで深く濃密になって行くと言う意味では、親の立場からするとありがたい事でもありますけれどね。がん教育を通して、もっと深いつながりを持てるという意味でも、いい事だとは思います。

(中)自分的には乗り越えていたと思っても、(授業を)聞いてみたら思い出してつらくなるとか、どう言う事が起こるかは分からないので、こうすれば良い、とかはわからないです。
親ががんになって、残念ながら非根治のがんでお亡くなりになってしまった方の子どもが特別かと言われると、そういうわけではないですし。今回の目的もがんだけ特別に扱う事が目的ではないという事なので、その辺、話題としては「がん」を扱いますがそこが本当に、(難しく)

「あの子、出て行ったね」
「そうなんだね」とかなって
「かわいそうだね」って言われてしまうのは、本来のがん教育の目的からかなりかけ離れてしまうので、その辺はどうやって配慮したらいいか、凄いむずかしいですね。

(片)配慮はもちろん、絶対に必要ですが、排除にならない配慮をして欲しいと思っています。事前の準備が学校側とされているのかどうなのかって事が、とても大事になってくるところですね。

(西)ここが一番重要ですね。それこそ、生徒さんが、結局納得しない事には、それこそ席を外す・外さない、それがいいのか・嫌なのかっていう所も含めてですよね、一律にはいかないです。

(片)最後の質問になります。社会教育としてのがん教育は「どうやって行くべきか」何かお考えがあれば、最後にお一人ずつお聞かせ下さい。

(西)そこに関しては、結局その人が知りたいかどうかって言うところが、一番ポイントになりますよね。すべての国民の方に一律にがん教育をみたいな事は、それこそ不可能です。何か「ここを見たら分かります」っていう、そういった情報が、ちゃんと得られるっていう仕組みを作っておくというのが、一番重要なのかなと言う風には思います。
がん研究センターのがん情報サービスもそうですし、がん拠点病院の市民公開講座っていうのは、定期的にはやっています、そういう意味で、コンテンツは、もうそこそこ揃っているとは思います。
ただ、そこにアクセスできていないというのが一番の問題で。それも含めてがん教育、学校でのがん教育を通して、ここを見れば分かるってことがちゃんと伝わっていて、それが社会人になって生きてくるってところになるのが、理想的だとは思います。

(中)がんになったとして、治らないがんになったとしても、治るがんにかかってサバイバーになったとしても、そのり患してからの人生をよりよく生きえる為に、正しい知識を身につけましょうって事だと思うので、QOLの最大化、人生の価値を上げいくという点に視点をもって生活するところが社会教育としてできればいいと思っています。

(片)私たちはまだまだ色々と、発信していく力を蓄えていかないといけないですね、広く。正しい知識なり、予防できる情報をアップデートした形で、広く一般の方々に分かりやすく伝えるようにしていかなければならないってことですね。

本日は、長い時間ありがとうございました。

西森 久和

西森 久和

広島県東広島市出身、岡山大学医学部卒業。

医師として呉共済病院、がん研有明病院化学療法科にて、血液腫瘍をはじめ、がんの薬物療法について研鑽を重ねる。現在、岡山大学病院血液・腫瘍内科において臨床に携わる。
岡山市のがん教育出前授業の依頼をきっかけに医師としてがん教育に出向く楽しさ、必要性を感じ年間を通して多くの中学高校へ出向いている。
岡山県がん教育協議会委員を務める。
【専門】がん薬物療法 造血幹細胞移植、臨床腫瘍学

中村 翔

中村 翔

茨城県つくば市出身、山形大学大学院医学系研究科博士課程修了。
博士(医学)

医師として山形大学医学部付属病院腫瘍内科で勤務する傍ら、多くの臨床経験を積みながらがんの個別化医療研究に従事する。
現在、神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーション研究科講師。
【専門】臨床医学・がん疫学

片山 佳代子(On Cancer 編集長)

片山 佳代子(On Cancer 編集長)

島根県松江市出身、早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了後、順天堂大学大学院医学研究科にて博士(医学)号取得。
現在、神奈川県立がんセンター臨床研究所 主任研究員。

厚労科研指定課題研究『がん対策における進捗管理指標の策定と計測システムの確立に関する研究』社会医学分野委員、神奈川県がん対策推進審議会委員、同がん教育協議会委員等を務める。外部講師研修会など多くのがん教育セミナー講師を務め、学校教育だけでなく、社会教育として大人のがん教育の必要性や教育にも尽力している。
【専門】がん疫学・健康行動科学

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